ブロックチェーン活用による業務効率化について

ブロックチェーン活用による業務効率化について

近頃「Web3」「NFT」という言葉をメディアで耳にする機会が増えたのではないでしょうか。
その根幹の技術となる「ブロックチェーン」については各メディアや著名人が「ブロックチェーンは革新的な技術である」「この技術で世の中は変わっていく」と発言していますが、ブロックチェーンについての解説を聞いても専門的な語句や横文字の羅列によって、いまひとつ概要が掴めないことが多いと思います。
そこで、今回はブロックチェーンについて「そもそもブロックチェーンとは」という基礎的な内容から、「ブロックチェーンを用いることでどのようなビジネスを興せるか」といった実践的な部分まで、豊富な図を用いてわかりやすく解説しました。

1 ブロックチェーンとは

この章ではブロックチェーンについて、どのように生まれたのかという基礎的な所から、ブロックチェーンの性質や特徴について説明します。

1-1 ブロックチェーンの発祥と原理


https://www.lij.jp/html/jli/jli_2019/2019autumn_p064.pdf
ブロックチェーンは、もともと世界初の仮想通貨である「ビットコイン」を支えるための中核技術として開発されたものです。

ブロックチェーン技術は、
①「ブロック」と呼ばれる取引データの固まりを一定の条件を満たすごとに生成する
②時系列的に鎖(チェーン)のようにつなげていく
という二つのステップにより、データを保管するデータベースの技術です。

ブロック(デ―タの集まり)をつなげていく形態がチェーンのように見えることから、ブロックチェーンと呼ばれています。

1-2 ブロックチェーンの性質

大きく分けて三つの性質があります。

①分散台帳


https://www.lij.jp/html/jli/jli_2019/2019autumn_p064.pdf

一つ目は、ブロックチェーン技術が分散台帳であることです。

ブロックチェーンは上述の仕組みから、すべての取引履歴が記録された、いわば巨大な帳簿となっています。
ブロックチェーンでは、取引の記録はネットワークの参加者全員がアクセスできるようになっており、共同で保有・相互検証されるように設計されています。そのため、ネットワーク内の参加者が、取引の記録を分散して管理できるようになりました。
つまり、ブロックチェーンを使うと、各種のデータをネットワーク上の分散されたデータベースで、分散的に管理することが可能となるのです。

加えて、ブロックチェーンを用いれば、取引は一度だけ記録され、従来取引の度に必要であった重複する作業(医療業界の例だと、新たに別の病院に行く度に問診票の記入をさせられる、といった作業)が無くなります。

これらによって、無駄なコストや時間を削減することに繋がるのです。

②シンクロナイズシステム


https://jblog.tradeshift.com/blochkchain-zukai/

ブロックチェーンは、シンクロナイズシステムがプログラミングされています。これによって、ネットワーク参加者は、過去の取引を改竄することが事実上不可能となっています。
シンクロナイズシステムとは、新しいブロックを生成する前に、1つ前のブロックの「ハッシュ値」(ブロック内のデータを圧縮した値)を含めるという仕組みです。
上図を抜粋しながらシンクロナイズシステムについて解説していきます。

 


https://jblog.tradeshift.com/blochkchain-zukai/

まず、左から二番目の緑色のブロックについて考えます。
前述の説明より、緑色のブロックは1つ前のブロックの「ハッシュ値」(ブロック内のデータを圧縮した値)を含めるという仕組みになっています。
そのため、緑色のブロックには黄色のブロックのハッシュ値が含まれていることがわかります。


次に、左から三番目の青色のブロックについて考えます。
先ほどと同様に、青色のブロックは1つ前のブロックのハッシュ値を含める仕組みになっています。
そのため、青色のブロックには緑色のブロックのハッシュ値が含まれていることがわかります。
ここで注意するべきなのは、緑色のブロックには黄色のブロックのハッシュ値が含まれているということです。

これを踏まえると、
青色のブロックは緑色のブロックのハッシュ値を含む
⇆青色のブロックは黄色のブロックのハッシュ値を元に生成された緑色のブロックのハッシュ値を含む
⇆青色のブロックは緑色、黄色のブロックのハッシュ値を含む
ということが言えます。


さらに、一番右の白色のブロックについて考えます。
先ほどと同様に、白色のブロックには青色のブロックのハッシュ値が含まれています。
ここで、「青色のブロックは緑色、黄色のブロックのハッシュ値を含む」ということに注意すると、白色のブロックは「青色、緑色、黄色のハッシュ値を含む」ということが言えます。

これらを一般化すると、
「第n番目のブロックは、第1~第n-1番目のブロックの全てのハッシュ値を含めて生成される」
ということが言えます。


以上のシンクロナイズシステムによって、仮にどこかのブロックを一つでも改ざんすると、それ以降のブロックと一致しなくなる(ブロック間に不整合が生じる)ので、すぐに改竄が発覚します。

③スマートコントラクト

三つ目は、ブロックチェーン内にてスマートコントラクトというプログラムがプログラミングされている点です(ビットコインのように、スマートコントラクトが搭載されていない場合もありますので注意してください)


https://www.sbbit.jp/article/fj/40394#&gid=null&pid=1
スマートコントラクトとはブロックチェーンシステム上の概念であり、あらかじめ設定されたルールに従って、ブロックチェーン上の取引、もしくはブロックチェーン外から取り込まれた情報をトリガーにして実行されるプログラムを指す。

暗号研究者で、仮想通貨「ビットコイン」の先駆けである「ビットゴールド」の生みの親ニック・サボ氏は、スマートコントラクトの例として自動販売機を挙げています。
自動販売機は、
①予め定義された分のコインを投入する
②消費者が欲しい商品を選択する
という二つの行動を行うことで、(誰からの仲介も必要とせずに)自動で商品が払い出されるようにプログラムされています。

この自動販売機のような仕組みが、予めブロックチェーンにプログラミングされているのです。

1-3 ブロックチェーンのメリット

前述の①分散台帳テクノロジー②シンクロナイズシステム③スマートコントラクト、という三つの性質から、ブロックチェーン技術のメリットを導くことが出来ます。

A 高い信頼性


メリットの一つ目に、ブロックチェーン技術は高い信頼性を担保できると言うものがあります。このメリットは三つの観点から説明することができます。

一つ目の観点

一つ目は、①分散台帳、というブロックチェーンの性質の観点からです。
前述の通り、ブロックチェーンは中央集権的な集中管理ではなく、分散台帳による非中央集権的な管理方法が取られています。
そのため、
❶中央集権的な管理者からの介入リスクがないこと
❷分散的に管理されているため、改竄するとしたら全ての台帳のデータを書き換える必要があるが。それは実質的に不可能であること
❸(各組織が独立したデータベースを持つのではなく)ブロックチェーンの分散台帳を用いることで、取引とデータは複数の場所に完全に同じものが記録されるため、取引の透明性と取引の追跡可能性が高まること

という❶〜❸の三つの面から、高い信頼性が担保されています。

二つ目の観点

二つ目は、②シンクロナイズシステム、というブロックチェーンの性質の観点からです。
前述の通り、ブロックチェーンは第n番目のブロックは、第1〜第n-1番目のブロックの全てのハッシュ値を含めて生成されるという性質があります。
そのため、改竄が実質的に不可能であり、強力なセキュリティを生み出すことができ、結果として高い信頼性が担保されています。

三つ目の観点

三つ目は、③スマートコントラクト、というブロックチェーンの性質の観点からです。
前述の通りスマートコントラクトとは、あらかじめ設定されたルールに従って、ブロックチェーン上の取引、もしくはブロックチェーン外から取り込まれた情報をトリガーにして実行されるプログラムを指します。

スマートコントラクトは、
❶取引が暗号化されていてハッキングが困難
❷仲介者を必要とせずプログラミングで動いているため、不正が起こり得ない
という二つの理由から、高い信頼性が担保されています。

以上の三つの観点から、ブロックチェーンは高い信頼性を有していることがわかります。

B システムダウンへの高い耐性


メリットの二つ目は、システムダウンに対して高い耐性を持っている点です。
これは、①分散台帳テクノロジー、というブロックチェーンの性質によって説明することができます。

ブロックチェーンでは、一つの管理者がデータを管理するのではなく、ネットワーク上の多くのコンピュータが同じデータを分散して管理しています。
そのため、どこか一カ所のコンピュータに障害があったとしても、他の参加者のコンピュータが動いているため、システム全体が障害になることはありません。

以上より、ブロックチェーンはシステムダウンに強い耐性を持っていることがわかります。

C 高い効率性


メリットの三つ目は、高い効率性を持っているということです。
このメリットは二つの観点から説明することができます。

一つ目の観点

一つ目は、①分散台帳という性質の観点です。
従来の技術では、各機関が独立したデータベースを各々持っていたため余分な業務が生まれていました。
しかし、ブロックチェーンを導入することができれば、参加者内であれば誰でも情報にアクセスできるようになります。

これによって、
❶重複した手続きが不要になる
❷本来支払っていた中間業者への手数料を払わなくて済む
といった二つの恩恵を享受できるので、時間の面でも生産性の面でも効率化を実現することができます。

二つ目の観点

二つ目は③スマートコントラクト、という性質の観点です。

スマートコントラクトも同様に、中間業者を必要としないため、
❶手数料の節約
❷即座の決済実行による時間の短縮
といった恩恵を享受できるので、時間の面でも生産性の面でも効率化を実現することができます。

以上の二つの観点から、ブロックチェーンを使用することによって高い効率性が実現できます。

1-4 ブロックチェーンの潮流


https://www.lij.jp/html/jli/jli_2019/2019autumn_p064.pdf

元々「ビットコインが主役でブロックチェーンはそのための技術」という位置付けでブロックチェーン研究は進められてきました。
しかし現在は「ブロックチェーンが主役でビットコインはその活用の一部」という位置付けに変化しています。
なぜなら、ブロックチェーンは、データを管理するための「帳簿の技術」であるため、対象とするデータは、仮想通貨のみならずさまざまなデータの管理への応用が可能だということが判明したからです。

そのため、ブロックチェーンは、下記のように大きく三段階の発展を遂げています。

・ブロックチェーン1.0(仮想通貨への応用)
・ブロックチェーン2.0(金融分野への応用)
・ブロックチェーン3.0(非金融分野への応用)

1-5 ブロックチェーンの種類


(
https://bitcoin.dmm.com/glossary/public_block_chain)

ブロックチェーンは、大きく三つの種類に分けることができます。
上図の通り、
❶パブリックブロックチェーン
❷プライベートブロックチェーン
❸コンソーシアムブロックチェーン
の3種類です。

❶❷についてはekoiosの資料を参考にしてください。
三菱UFJリサーチ&コンサルティングの資料を参考にしてください(
ただし、2019時点の情報であるため、現状とは違ったことが記載されている可能性がありますのでご注意してください)。

参考資料
https://www.murc.jp/wp-content/uploads/2019/04/seiken_190422.pdf
https://eneken.ieej.or.jp/data/8528.pdf
https://www.lij.jp/html/jli/jli_2019/2019autumn_p064.pdf
https://onl.tw/eqvj38S
https://www.ibm.com/jp-ja/topics/what-is-blockchain
https://www.sbbit.jp/article/fj/40394
https://www.softbank.jp/biz/blog/business/articles/201804/blockchain-basic/
https://hide.ac/articles/DQfR36I-A
https://bitcoin.dmm.com/glossary/public_block_chain
https://www.sbbit.jp/article/fj/40394

2 ブロックチェーン業界の市場規模


(出典:
https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/2914

このグラフによると、2019年ごろは1718億円だった市場規模は、2025年度には7兆円を超える規模になることが予想されています。

この予想の理由は大きく分けて二つ考えられます。

一つ目は、社会情勢の観点から、ブロックチェーンが注目されているからです。
具体的には、
・食や電気などESG関連の事象において、情報の透明性が叫ばれている社会情勢
・新型コロナ流行による「生活の中のオンライン率」が高まったこと
・仮想通貨やNFTが身近な存在になり、ブロックチェーンへの距離感が近くなったこと
の2点が理由として挙げられます。

二つ目は、ブロックチェーンのビジネスにおける実用可能性が高まってきているからです。
具体的には、ブロックチェーン技術をビジネスで活用する実証実験が数多く行われ、その優位性が認められてきたことが理由です。実際に矢野経済研究所も

市場規模がここまで拡大すると予想されている理由は、ブロックチェーンの特性や適用先に関する知見などの蓄積を受けて、実証実験の質が変化してきており、お試しから効果検証に向けて、より本番環境での運用を想定した検証へと進む大手事業者が出てきている。

出典:矢野経済研究所

との見解を示しています。

以上の「社会情勢の観点」「実用可能性」の2点の理由から、今後も市場規模が拡大していくことが予想されます。

参考資料
https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/2914
https://vnext.co.jp/ja-jp/v-journal/blockchain-in-vietnam.html
https://dcross.impress.co.jp/docs/column/column20180725-01/000599-2.html

3 業界ごとのブロックチェーン活用状況


(出典 
https://baasinfo.net/?p=1972
ブロックチェーンの業界について簡単に解説します。上図のカオスマップに掲載されている
❶保険
❷電力
❸不動産
❹サプライチェーン
❺マーケ
❻ヘルスケア
❼アート
といった7つの業界について、業界の課題とそれに対するブロックチェーンソリューションの考察を行います。

3-1 ブロックチェーン×保険

この章では、保険業界とブロックチェーンの関わりについて解説していきます。


3-1-1 業界状況

ブロックチェーンは金融業にて積極的に活用されるというイメージ通り、保険業界においてもブロックチェーンは活用されています。その中でも、特に損害保険・再保険の分野においての活用が進んでいます。

なぜなら、自動運転という破壊的テクノロジーの影響を多分に受けているからです。
自動運転によって将来的に事故の数が減れば、自ずと損害保険を利用する人の数が減ることが予想されます。
損害保険を利用する人の数が減ると、「保険の保険」である再保険を利用する人の数が減ることも予想されます。

以上の理由より、損害保険会社・再保険会社は収益性の低下に危機感を募らせているため、ブロックチェーン導入によるコスト削減が注目されているのです。
勿論、生命保険会社などもコスト削減のためのブロックチェーン導入を行っているため、それについても触れていきます。

3-1-2 活用ケース


保険会社のブロックチェーン活用ケースは、4つ考えられます。

①相互運用可能で包括的な健康記録への移行

これは一言で言うと、「情報が共有できるようになる」ということです。

現在、ヘルスケアに関するデータは、個々の企業や病院に分散してしまっています。プライバシーと安全性への懸念から、これらのデータはほとんど共有されていません。

そこで、ブロックチェーン技術によってデータの共有が可能になれば、
❶情報量増加による新たなビジネスチャンスの発掘
❷個人名、住所などの情報などの一元的な管理によるコスト削減
❸受診歴、入院歴の情報から保険料を算出するコストの削減
といった効果が期待できます。

②スマート・コントラクトを用いた管理上の支援

これは一言で言うと、「情報を取得・処理・共有・機密を守る・使用といった事象が最適化される」ということです。
現在、多くの保険会社は、もともと30年以上前に構築された保険金請求システムを使用しています。

そこで、ブロックチェーンを導入することが有効な施策になります。
スマートコントラクトのルールに基づいたシステムと利用条件の自動検証を用いることで、引受、保険料設定、保険金請求処理といったバックオフィスの管理手続きが、より簡潔になることが期待できます。

例えば保険金請求処理の場合、医療機関が医療サービスを提供し患者の健康記録を更新するとブロックチェーンにアップロードされます。
それが検証されるとすぐに、スマート・コントラクトによって医療機関への支払いを開始することができます。
これにより、1件ずつ請求手続きを行ったりそれを調査する必要性が減り、コスト削減に繋がるのです。

③不正請求のより効果的な検知

現在、保険会社に対する不正請求は年間800億ドルと言われています。
不正請求とは、例えば糖尿病患者が自身の疾病を隠して保険に申し込むことや、医療機関が診療を行っていないのにも関わらず診療報酬を請求することなどが挙げられます。

そこで、ブロックチェーンを導入することが有効な施策になります。

ブロックチェーンのスマートコントラクトによって、請求の妥当性の有無を検証できます。具体的には、契約者から保険会社への請求の申し出が来た際に、保険会社は、その申し出の妥当性についてブロックチェーン上の情報と照らし合わせることで検証することができます。

④カスタマーエクスペリエンスの向上

顧客の利便性を考慮した申請手続きの簡略化に役立てることができます。
現在、保険の申し込み(特に生命保険・健康保険)の際のカスタマーエクスペリエンスが低いことが問題になっています。
具体的には、過去の健康情報を収集したり、引受や保険料の設定のために新しい検査を必要とする場合、時間がかかってしまうからです。
そこで、ブロックチェーンから包括的なヘルスケア情報(身長体重、受診歴、過去に処方された薬、などの情報)を引き出すことになれば、煩雑で時間がかかる保険申請手続きが簡略化できることが期待できます。


以上の①〜④の4点の活用法が考えられます。

参考資料
https://www.accenture.com/_acnmedia/PDF-127/Accenture-FS-Architect-vol-53-3.pdf
https://www2.deloitte.com/content/dam/Deloitte/jp/Documents/financial-services/ins/jp-ins-blockchain-in-health.pdf

3-1-3 実際の事例


3-1-3-1 BSi

ブロックチェーン保険イニシアチブ( Blockchain Insurance Industry Initiative:以下「B3i」)は、2016 年 10 月に欧州の保険会社、再保険会社 5 社でスタートしたコンソーシアム型ブロックチェーンのプロジェクトです。

設立された目的は、
・グローバルに展開される保険事業にブロックチェーンを活用すること
・保険業界共通のプラットフォーム構築の可能性を探求すること
の2点でした。

かねてより、保険業界内の取引プロセスは
❶非常に複雑
❷労働集約的
❸事務ミスが発生しやすい
❹コストが高い
という課題がありました。

そのため、個々の保険会社は長年にわたり、プロセスの最適化に多大な努力を払い、保険バリューチェーンをさらに自動化する必要がありました。

以上の理由より、B3i はブロックチェーン技術を用いて複数の取引相手にわたる取引処理をデジタル化することを目標としています。

3-1-3-1 フランス保険協会による保険会社間顧客データ交換

フランス保険協会(Fédération Française de l’Assurance:以下「FFA」)は 2017年 11 月、デジタル委員会ブロックチェーン作業部会のメンバーとなっている保険会社 14 社が、顧客の契約データ交換にブロックチェーン技術を使った共同の実証実験を行いました。

フランスでは、消費者の保険会社の乗り換えを促進するような法律が制定されました。またそれに伴い、乗り換えられた保険会社は、乗り換え先の保険会社に顧客データを30日以内に引き渡さなくては行けないといった条項も記されていました。

そのため、このようなブロックチェーンを用いることで煩雑なデータ交換業務を最適化することができるのか、といった実証実験が行われるに至ったのです。

結果として、この技術利用に優れた効率性、安全性が認められたことが発表されました。

3-2 ブロックチェーン×電力

この章では、電力業界とブロックチェーンの関わりについて解説していきます。


3-2-1 業界状況

電力業界では、分散型エネルギーの有効活用に関する課題があります。


(
https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/mitoshi/006/pdf/006_05.pdf)
前提として二つのことを確認しておきます。

一つ目は、日本の電力の潮流についてです。
日本では東日本大震災を契機に、従来の一方向型エネルギー供給の脆弱性が顕在化されました。そこで、各家庭が(太陽光発電などを通じて)電力を生産し、供給に参加できるようにする双方向型エネルギー供給が主流となりつつあります。

二つ目は、エネルギーの呼称についてです。
発電所などで生産されるエネルギーを「集中型エネルギー」、各家庭などで生産されるエネルギーを「分散型エネルギー」といいます。

これら二つの前提を踏まえると、電力供給のベクトルはBtoC(集中型エネルギー→各家庭)のみならずPtoP(各家庭→各家庭)も盛んになっていることがわかります。
その取引形態の変容により、従来はBtoCの一方向的な電力の流れを管理すればよかった電力システムが、PtoPの、時には電力取引(売電と買電)の向きが変わる可能性のあるシステムに変わることになります。

そのため、新しい形の取引プラットフォームが必要となっていました。

3-2-2 活用ケース


ブロックチェーンを利用したプラットフォームの構築が考えられます。

従来は、集中型エネルギーのみだったため、BtoCの一方向的な取引が行うことができれば十分でした。

一方、現在は集中型エネルギーのみならず分散型エネルギーが主流になってきているため、BtoCのみならずPtoPの双方向的な取引ができるプラットフォームが求められています。
具体的には、各者の電力需給状況をこまめに把握し需給を即座にマッチングする機能、その後すぐに取引の決済を行う機能、こうした取引情報を管理する耐改ざん性の強いシステム、取引に用いられるトークンの発行・管理機能等が求められるようになります。

そのため、それらのニーズを満たすことができるブロックチェーンを活用してプラットフォームを作ることが、一つの解決策となります。

3-2-3 実際の事例


3-2-3-1:低炭素価値取引へのブロックチェーンの適用(みんな電力)

みんな電力ではブロックチェーン技術を用いた P2P 電力取引プラットフォームである「ENECTION 2.0」を開発しました。
これによって
❶電力配分の最適化
❷電力由来の特定(顔の見える電力)→再生可能エネルギーの証明
などが可能になりました。

3-2-3-2:ドイツRWE社による「分散型エネルギー取引」の取り組み

RWE社の子会社であるInnogy社は、ブロックチェーン技術を活用したプロシューマーと電力需要家間の電力取引事業を行いました。
具体的には、プロシューマーの余剰電力を束ねるアグリゲーターの役割を担いながら、取引参加者の売買量に応じて、プロシューマー並びに需要者から手数料を取るビジネスを行いました。

これによって、P2P取引が可能になったというのは勿論のこと、電力の透明性担保のコストを抑えることができるようになりました。

欧州では電力小売自由化を契機に、電力供給者は電力需要者に対して発電源証明を提出する必要がありました。

従来であれば様々な手続きを通じて認証を受ける必要があったものの、Innogy社のブロックチェーンを活用したプラットフォームによってデータのトレーサビリティが向上したため、容易に発電源証明を得ることができるようになりました。

参考資料
https://eneken.ieej.or.jp/data/8528.pdf
https://www.murc.jp/wp-content/uploads/2019/04/seiken_190422.pdf

3-3 ブロックチェーン×不動産

この章では、不動産業界とブロックチェーンの関わりについて解説していきます。


3-3-1 業界状況

不動産業界は、全体的に取引が煩雑であるという課題がありました。

より具体的に分解すると、
①取引の手間(取引書類の作成や押印、銀行訪問や物件立合)
②登記の手間
といった課題がありました。

その課題を解決するための手段としてブロックチェーンが有効だと言われています。

3-3-2 活用ケース


不動産業界においてブロックチェーンを導入できれば、かなりのコストカットが期待できます。

①書類業務のカット

一つ目は、書類業務のカットができる点です。
前述の通り、不動産業界では取引の手間が課題として認識されていました。
そこで、ブロックチェーン技術の「高い信頼性」「高い効率性」というメリットを活かして不動産取引をデータ上で行うことによって、取引業務の効率化を実現できると考えられます

具体的には、不動産の売買における購入申し込みや送金の確認、売買契約書などの書類の送付といった、従来は人間が行っていた雑務を全て自動化できます。
例えば、スマートコントラクトの技術を応用することで、買い手からの送金を確認でき次第、自動で売買契約書を売り手・買い手双方に共有されるようにすることができるようになります。

これによって、捺印をして買い手に送付するといった作業が減少し、時間やコストが削減に繋がります。

②信頼担保費用のカット

二つ目は、信頼を担保するために支払っていたコストをカットすることができる点です。
言い換えると、ブロックチェーンを導入することによって、メリットの一つである「高い信頼性」が担保されるため、司法書士や仲介業者といった信頼を担保するために支払っていたコストをカットすることができるようになります。

参考資料
https://asset-ocean.com/article/5-impacts-of-blockchain-on-the-real-estate-industry-and-3-japanese-case-studies/
https://www.asteria.com/jp/inlive/social/4386/
https://www.lij.jp/html/jli/jli_2019/2019autumn_p064.pdf
https://trade-log.io/column/516#post-516-_2vxbmsfpino0
https://www.sumave.com/20181204_8110/
https://relipasoft.com/blog/blockchain-in-real-estate/

3-3-3 実際の事例

ここでは、実際の事例を二つ紹介します。

①ジョージアの事例


ジョージアでは、登記にかかる費用が高額で、かつ手続きが煩雑でした。
そこで、土地登記の仕組みにブロックチェーンを導入することで、土地登記システムを刷新した結果、手続き時間の簡素化、費用大幅削減に成功し、登記率上昇という結果を出すことができました。

②Propy(国際不動産売買)の事例


「不動産×ブロックチェーン」の代表格として注目を集めている海外事例に、オンライン国際不動産売買プラットフォーム「Propy(プロピー)」があります。
Propyは、「Propy Inc.(プロピーインコーポレーテッド)」が、国際不動産売買の取引を自動化したいという思いから開発したプロダクトです。

国際不動産取引には、
❶統一された不動産プラットフォームがない
❷所有権移転の手続きに時間がかかる/リスクがある/費用が高い
❸オンライン決済の仕組みがない
❹国や都市によって不動産の購入手続きが異なる
❺オンライン取引における通信時の規約や規格(プロトコル)が確立されていない
といった課題がありました。

そこで、ブロックチェーンのスマートコントラクト機能を利用したPropyを開発し実用化することで、より円滑に国際不動産取引ができるような環境を作ろうとしています。

参考資料
https://propertyaccess.jp/articles/1408
https://trade-log.io/column/516
https://www.sumave.com/20191108_14352/

3-4 ブロックチェーン×サプライチェーン

この章では、サプライチェーン業界とブロックチェーンの関わりについて解説していきます。

3-4-1 業界状況

サプライチェーンは、不確実性と複雑性を増していることが原因で、大きく四つの課題を抱えています。

①長く複雑なサプライチェーン

製品・商品の原材料・部品の調達から販売まで、サプライチェーンが非常に長く複雑で、企業内に留まらず多くの外部企業・グループ内企業にまたがるようになっています。勿論、国内のみで完結せずに海外企業を巻き込むことも多々有ります。

②低いコラボレーション

データの信憑性や正確性を担保するための協業体制の構築やコラボレーションを効率的に行えている例が少ないため、サプライチェーン内であっても取引データが信頼できず、確認や調整に多くの時間が必要となります。

③紙ベースの煩雑な作業

調達量や生産量の調整にあたっては、手作業や紙ベースでの作業が多く存在します。帳票の送受信についても、内容や送信先の確認などを含め、多くの労力が割かれます。こうした時間の積み重ねが、サプライチェーン全体に煩雑さをもたらしていると考えられます。

④情報伝達フローの分断と不透明性

サプライチェーンの複雑さにより全体がつながらず、情報伝達のフローが分断されることで、エンド・ツー・エンドの観点で、情報に不透明さが増すことになります。具体的には、最終消費者である我々は、一番最初の生産者(農家の方など)の情報を得づらい状況がありました。
結果として、本来であればできたであろう原料、材料、在庫の効率的な利用が妨げられます。
また、情報やモノの追跡が困難であるため、サプライチェーンの途中に模倣品が混入し、買い手が損害を被るケースが拡大しています。


以上の①〜④の四つの課題に対する解決策として、ブロックチェーン技術が注目されています。

3-4-2 活用ケース

活用ケースについて、ブロックチェーン導入とそれによる効果の二つに分けて説明します。

3-4-2-1 ブロックチェーンの導入

SCM(サプライチェーンマネジメント)にブロックチェーンを導入することで、課題を解決することができます。

(参照https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/column/disruptive-technology-insights/assets/pdf/disru
図のように、ブロックチェーンを用いることで、従来のSCMを一変させることができます

従来はSCM基盤が複数存在し、それが連結されてサプライチェーンが構築されていたため、結果として前述四つの課題が生まれるような、時代にそぐわないプライチェーンが誕生していました。

一方、ブロックチェーンという特定の管理者を置かない非中央集権システム型SCMが導入されれば、上記の課題を解決できるような、時代に適したサプライチェーンを構築することができます。

ここから、「3-4-1 業界状況」で触れた四つの課題との対応について説明します。

3-4-2-2 導入による具体的な四つの効果

①の課題について。

ブロックチェーンが導入されればSCMが非常に明快になるため、「①長く複雑なサプライチェーンサプライチェーン」という課題を解決することができます。
サプライチェーン内の企業から情報を取得したい場合は、ブロックチェーンにアクセスすることで全ての情報にリーチすることができるようになります。
また、情報の信頼性に関しても、ブロックチェーンによって担保することができます。

②の課題について。

ブロックチェーンが導入されればSCMが管理者を置かないブロックチェーンになるため、「②低いコラボレーション」という課題を解決することができます。

従来、何かコラボレーションをしたい際は、企業と企業が直接繋がって行う方法しか有りませんでした。そのため、企業同士の情報整理の違いや情報の品質基準の違いなどが発生するという課題が生まれ、結果として低いコラボレーションに終始していました。
一方、ブロックチェーンが導入されれば、企業と企業がブロックチェーンを介して繋がることができます。これにより、ブロックチェーンによって情報の信頼性が担保され、結果として従来よりコラボレーションを多く創出できるようになります。

③の課題について。

ブロックチェーンが導入されれば、リアルタイムの情報共有ができるようになること、重複した情報の削減ができることなどによって「③紙ベースの煩雑な作業」という課題を解決することができます。

従来は、あるサプライチェーン内の企業にて情報の修正があれば、その都度連絡をしていました。また、サプライチェーン内の企業は、それぞれの企業毎に情報の整理、管理を行っていました。
ブロックチェーンが導入されれば、リアルタイムの情報共有が可能になるため情報修正のための余分な手間を削減することができます。また、ブロックチェーンが企業情報を管理することによって、重複する情報を削減することが可能になります。

④の課題について

ブロックチェーンが導入されれば、サプライチェーンの理解が明快になるため、「④情報伝達フローの分断と不透明性」という課題を解決することができます。
ブロックチェーンの導入によって情報の分断が起きなくなり、トレーサビリティの容易性が増すため、情報の透明性を担保することができるようになります。

参考資料
https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/column/disruptive-technology-insights/assets/pdf/disru
http://ptive-technology-insight07.pdf
https://academy.binance.com/ja/articles/blockchain-use-cases-supply-chain

3-4-3 実際の事例


ここでは、ウォルマート社の事例を取り上げます。

①前提と課題

世界最大の小売会社であるウォルマート社は、「毎日低価格」をモットーに、様々な方法でコストカットを行ってきました。
その一つが売上原価のカットでした。
具体的には、一つ一つの商品について最適な仕入れ先を選定するようなサプライチェーンを構築することで低価格化を実現させてきました。

しかし、それ故にウォルマートにはトレーサビリティに課題がありました。
低価格化が実現できた一方、非常に複雑なサプライチェーンになってしまったため、仮に一つの商品に不具合が生じた際に、その商品がどこから来た物なのかを追跡することが非常に難しくなってしまっていました。

②ブロックチェーンの導入

そこで、IBM Food Trustというブロックチェーンソリューションを導入しました。
これは、ブロックチェーンを活かした食品業界サプライチェーンに対応したITソリューションです。

このITソリューションは、
❶サプライチェーンにおける効率性の上昇
❷消費者のブランドへの信頼性の担保
❸食事の安全性向上
❹持続的なネットワークの構築
❺食品の鮮度向上
❻食品偽装の撲滅
❼フードロス削減
といった、七つの効果を期待できるソリューションでした。

③導入によるメリット

このブロックチェーンソリューションの導入によって、二つのメリットがあります。

一つ目は、守りのメリットです。
具体的には、
❶秒単位で瞬時に商品を追跡でき、食品の汚染や中毒の拡散を防ぐこと
❷サプライチェーン全体でデータを共有・管理によってフードロスを最小限に留めること
といった2点が可能になるといったメリットを享受できました。

二つ目は、攻めのメリットです。
具体的には、
❶商品の新鮮さや鮮度のアピールすること
❷証明書によって食品の由来や真正性を担保し、ブランドという付加価値を付すこと
といった2点が可能になるといったメリットを享受できました。

参考資料
https://corporate.walmart.com/esgreport2019/
https://www.ibm.com/blockchain/resources/7-benefits-ibm-food-trust/
https://www.ibm.com/blogs/smarter-business/business/food-trust/

3-5 ブロックチェーン×マーケ

この章では、広告・マーケ業界とブロックチェーンの関わりについて解説していきます。

3-5-1 業界状況


https://dev.classmethod.jp/articles/brave_browser/
企業がマーケティングをする際に、多くは広告代理店などにマーケティングを依頼することになります。現在、その広告(特にデジタル広告)に関して、その構造に由来する問題点が2点あります。

一つ目は、中抜き構造です。
Youtuberやブロガーなど、コンテンツを作成し、広告収入を得ることで生計を立てている人たち(上図でいうところの「クリエイター/パブリッシャー」)は、広告配信の仲介という中抜き構造によって、どんどん目減りしている現状があります。

二つ目は、ユーザーの嫌悪感です。
基本的にユーザーは広告を見たくないケースが多いです。
娯楽としてYoutubeやブログを見ている際に数秒間の広告が強制的に流れると、ユーザーは嫌悪感を抱くことが少なくありません。
一方スポンサーは、構造上の問題から「ユーザーがネガティブに感じている場所・状態」に広告を配信するしかありませんでした。

以上2点が課題としてありました。

3-5-2 活用ケース・活用事例

株式会社ブレイブは、ブロックチェーン技術を活用した新しいプラットフォームを構築することで、課題の解決を図っています。
以下より、プラットフォームについて具体的に説明します。


https://dev.classmethod.jp/articles/brave_browser/
従来は、上図のように広告配信業者による中抜きが行われていました。
また、スポンサーはYoutubeなどへの広告掲載など、半強制的にユーザーに視聴させる形で広告を行ってきたため、ユーザーに嫌悪感をあたえることになっていました。


https://dev.classmethod.jp/articles/brave_browser/
一方、Braveのプラットフォームを構築することができれば、中抜き構造やユーザーの嫌悪感といった従来の課題を解決することができます。
まず、スポンサーはBATトークンを使ってブレイブ内に広告を出します。
ユーザーはBATトークンを受け取って広告を閲覧することも、BATトークンを受け取らずに広告を閲覧しないこともできます。ユーザーは、受け取ったBATトークンを用いてプレミアムサービスにアクセスしたり、「クリエイター/パブリッシャー」にチップとして直接投げ銭をすることが可能です。

これによって、
❶ユーザーの広告の積極的な閲覧
❷良質なコンテンツを提供し続けることで報酬があつまるというシステムの構築(中抜き構造の排除)
といった、二つのことを達成することができるようになりました。

参考資料
https://coinpost.jp/?p=183757
https://dev.classmethod.jp/articles/brave_browser/#toc-3
https://agenda-note.com/technology/detail/id=84&pno=1
https://dev.classmethod.jp/articles/brave_browser/

3-6 ブロックチェーン×ヘルスケア

この章では、ヘルスケア業界とブロックチェーンの関わりについて解説していきます。

3-6-1 業界状況

ヘルスケア業界にブロックチェーンを導入することは重要だと言われています。理由は2点あります。

①将来的観点から


(出典
https://www.projectdesign.jp/201608/healthcare/003059.php

1点目の理由は、将来的な観点からヘルスケア業の改善は必須だからです。
ヘルスケア市場並びにヘルスケアに関わる人の数は年々大きくなっています。実際、市場規模は2020年時点で26兆円に達し、医療従事者の数も994万人にまで増加しています。
この市場の成長が行き着く先は、医療崩壊並びに日本経済の衰退だと考えられています。なぜなら、需要と供給が釣り合わなくなる可能性があるからです。

将来のことについて需要の観点から考えると、
・高齢化社会のため高齢者の数が増え、需要が大きくなる
・上記により医療費が増大し日本財政が逼迫する
という影響が考えられます。

将来のことについて供給の観点から考えると、
・少子化社会のため労働生産人口が減り、供給が小さくなる
・日本財政逼迫のため、医療看護介護といった「割りの合わない仕事」感が改善されない
という影響が考えられます。

以上の需要と供給の観点から、
・予防医療(いかに高齢者に健康でいてもらうか)
・ヘルスケア業務の効率化
の観点が非常に重要視されています。

②親和性の観点から


2点目の理由は、ヘルスケアが、ブロックチェーンがもつデータの対改竄性と、非中央集権というコンセプトを活かせる領域であるからです。

一つ目のデータの対改竄性について説明します。
ヘルスケア業界において、情報の改ざんは起こりうる問題です。なぜなら、例えば何か症例をでっちあげれば国から補償金をもらえたりと、お金を稼ぐ手段として利用できるからです。
そのため、ブロックチェーンを導入し改ざん困難な環境を作ることができれば、保険金や補助金の不正受給を減らすことが可能になります。

二つ目の非中央集権的という事柄について説明します。

現在ヘルスケア業界では、各医療機関が独立して情報を保有しています。そのため、ユーザーや医療機関は余計なコストがかかってしまうことになります。
例えば、ユーザーは別の医療機関を受診する際に、再度自身のデータについて書面に記載し提出する手間が生まれます。医療機関は、情報の共有そのものに対して、医療機関のパワーバランスやプライバシーや規格の問題から、簡単に情報の融通が効かないのが現状です。
そのため、非中央集権的な構造を持つブロックチェーンが導入できれば、この課題を解決することに繋がります。

以上の「対改竄性」「非中央集権的」といったブロックチェーンの性質とヘルスケア業界の親和性が高いことが推察できます。


以上の①将来的な観点②親和性の観点、の2点の理由より、ヘルスケア業界にブロックチェーンを導入することの意義が議論されています。

3-6-2 活用ケース


考えられるユースケースは二つあります。

①カルテ関連業務の改善

一つ目は、ブロックチェーンの非中央集権的な性質を利用したカルテ関連の業務改善です。
多くの場合、患者は様々な病院にかかり様々な薬を処方されているため、ヘルスケア業界では様々な非効率が発生しています。

ブロックチェーンを導入することができれば、
❶リアルタイムのカルテ共有(故に問診票作成が不要に)
❷分散型台帳による各医療機関の平等な提携
の二つが可能になります。

これによって
❶余計な業務を減らすことによるコストカット
❷医療機関の連携による最適な医療サービスの提供
の二つの効果が期待できます。

②不正防止

二つ目は、ブロックチェーンの性質を利用した不正の防止です。
ブロックチェーンを導入することで、ブロックチェーン内の医療機関内の情報共有による保険金・補助金の不正受給を減らすことが可能になります。

従来は、消費者が医療機関で診断された診断書を保険会社・公的機関に持っていくことで、保険金・補助金などを申請していました。
その過程で、診断書の書き換えという不正や情報の非対称性を利用した不正(消費者が知っている受給に不利になる情報を、保険会社や公的機関に伝えない、など)が行われていました。
ブロックチェーンを導入することができれば、保険会社や公的機関は、医療機関が作成した診断書の現物にアクセスできるようになります。

そのため、
❶診断書の書き換えの撲滅
❷情報非対称性の解消
の二つの効果が期待できます。

参考資料
https://trade-log.io/column/684#post-684-_2vxbmsfpino0
https://www.oracle.com/jp/blockchain/what-is-blockchain/blockchain-in-healthcare/

3-6-3 実際の事例


例として、エストニアにおけるブロックチェーンで管理された医療データベースについて説明します。

日本では、前述の通り情報が各機関に分散されて保存されています。
個人の病歴や診察履歴、薬の服用履歴など、本来であれば本人に紐づくべき情報がサプライヤー側でばらばらに管理されている状況にあります。

一方、IT大国であるエストニアでは、全ての情報が一元的に管理されています。
出生直後から全ての国民はID番号に紐づけられており、病歴や診察履歴、薬の服用履歴などが一元的に保存されています。これらは全て暗号化されており、暗号を解除できるのは警察と本人のみとなっています。
これにより、問診票の記入や患者の状況把握の漏れなどを防ぐことができます。
また、薬を処方される時も医者から薬剤師へ、リアルタイムで情報が送られるため即座に薬を受け取ることができたり、緊急搬送時の際に警察に要請して急患の医療データを開示してもらうことで、より適切な処置を施すことができます。

日本でもヘルスケア業界にブロックチェーンを導入することができれば、救われる命が増えることは間違い無いと言えます。

3-7 ブロックチェーン×アート

この章では、アート業界とブロックチェーンの関わりについて解説していきます。


3-7-1 業界状況

業界状況について、主にデジタルアートの面から説明します。
そもそも、デジタルアートとはデジタル絵画や電子音楽、CGといった、コンピューターで制作された、実際に手に取ることはできない作品のことです。
従来、デジタルアートに価値をつけることは難しいとされていました。
なぜなら、コピーや拡散を行うことが簡単であり、オリジナルの判断が難しい状況だったからです。

そのため、アナログのアートに比べて、デジタルアートはあまり注目されてきていませんでした。

3-7-2 活用ケース


NFTとは

現在は、ブロックチェーン技術の発達によりNFT技術が発展しました。
これによって、アート業界は「デジタルアートに価値が付けられるようになる」という変革が起きました。

ここで、NFTについて説明します。
NFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)は、ブロックチェーン上で発行された「1点モノ」のトークンのことです。NFTは、ブロックチェーンの持つ耐改ざん性、および来歴管理(誰から誰に所有権が移転したかの管理)が可能であるという特徴を生かし、「偽造不可能な鑑定書+所有証明書」の性質を帯びるようになります。これによってNFTに資産性が生まれるようになりました。

NFT売買の流れ


https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/column/opinion/pdf/12710.pdf
NFTの売買の流れについて、上図と紐付けながら「①発行→②購入と来歴管理→③転売→④支払い」というステップで解説していきます。

①NFTの発行

コンテンツ作者は、コンテンツに付随する情報(コンテンツ保管場所など)をブロックチェーンに記録することで、NFTを発行します。
ここで気をつけるべきは、NFTにはデジタルコンテンツの保管場所などが記録されるが、デジタルコンテンツ自体はブロックチェーンに記録されないという点です。
ブロックチェーンに記録可能なデータサイズは大きくないため、デジタルコンテンツに付随・関連する情報を記録することでNFTを発行します。

②NFT購入と来歴管理

NFTは、マーケットプレイス(取引所)で購入され、購入者アドレスがブロックチェーンに記録されます(NFTの持ち主が移る)。
購入者のアドレスが逐一ブロックチェーンに記録されるため、デジタルコンテンツがどのような来歴を辿っているのかが一目瞭然になります。

③転売

 NFT購入者は、マーケットプレイスで転売することができます(二次流通)。転売時にもコンテンツ作者が収益を得られるようにすることもできます。
この仕組みによって、「作者の収益増→よりよい作品が市場に」という効果が期待できます。

④支払い

NFTの支払には、暗号資産ETH(イーサ)が使われることが多く、ETHの取引情報も併せてブロックチェーンに記録されます。

 


以上の①〜④の四ステップを通じて、NFTは取引されます。
この技術によって、デジタルアートの取引や資産性が注目されるようになり、非常に大きな盛り上がりを見せるようになりました。

参考
https://www.caica.jp/media/crypto/nft-art-about/#nft%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%83%88%E3%81%A8%E3%81%AF
https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/column/opinion/pdf/12710.pdf
https://www.artbasel.com/news/art-market-report

 

4 参考資料一覧

1 ブロックチェーンとは
https://www.murc.jp/wp-content/uploads/2019/04/seiken_190422.pdf
https://eneken.ieej.or.jp/data/8528.pdf
https://www.lij.jp/html/jli/jli_2019/2019autumn_p064.pdf
https://onl.tw/eqvj38S
https://www.ibm.com/jp-ja/topics/what-is-blockchain
https://www.sbbit.jp/article/fj/40394
https://www.softbank.jp/biz/blog/business/articles/201804/blockchain-basic/
https://hide.ac/articles/DQfR36I-A
https://bitcoin.dmm.com/glossary/public_block_chain
https://www.sbbit.jp/article/fj/40394
https://baasinfo.net/?p=1972

2ブロックチェーン業界の市場規模
https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/2914
https://vnext.co.jp/ja-jp/v-journal/blockchain-in-vietnam.html
https://dcross.impress.co.jp/docs/column/column20180725-01/000599-2.html

3業界ごとのブロックチェーン事例
https://baasinfo.net/?p=1972

3-1 保険
https://www.accenture.com/_acnmedia/PDF-127/Accenture-FS-Architect-vol-53-3.pdf
https://www2.deloitte.com/content/dam/Deloitte/jp/Documents/financial-services/ins/jp-ins-blockchain-in-health.pdf

3-2 電力
https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/mitoshi/006/pdf/006_05.pdf
https://eneken.ieej.or.jp/data/8528.pdf
https://www.murc.jp/wp-content/uploads/2019/04/seiken_190422.pdf

3-3 不動産
https://asset-ocean.com/article/5-impacts-of-blockchain-on-the-real-estate-industry-and-3-japanese-case-studies/
https://www.asteria.com/jp/inlive/social/4386/
https://www.lij.jp/html/jli/jli_2019/2019autumn_p064.pdf
https://trade-log.io/column/516#post-516-_2vxbmsfpino0
https://propertyaccess.jp/articles/1408
https://trade-log.io/column/516
https://www.sumave.com/20191108_14352/
https://www.sumave.com/20181204_8110/
https://relipasoft.com/blog/blockchain-in-real-estate/

3-4 サプライチェーン
https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/column/disruptive-technology-insights/assets/pdf/disru
https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/column/disruptive-technology-insights/assets/pdf/disruptive-technology-insight07.pdf
https://academy.binance.com/ja/articles/blockchain-use-cases-supply-chain
https://corporate.walmart.com/esgreport2019/
https://www.ibm.com/blockchain/resources/7-benefits-ibm-food-trust/
https://www.ibm.com/blogs/smarter-business/business/food-trust/

3-5 マーケ
https://basicattentiontoken.org/ja/
https://dev.classmethod.jp/articles/brave_browser/
https://coinpost.jp/?p=183757
https://dev.classmethod.jp/articles/brave_browser/#toc-3
https://agenda-note.com/technology/detail/id=84&pno=1

3-6 ヘルスケア
https://www.projectdesign.jp/201608/healthcare/003059.php
https://trade-log.io/column/684#post-684-_2vxbmsfpino0
https://www.oracle.com/jp/blockchain/what-is-blockchain/blockchain-in-healthcare/

3-7 アート
https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/column/opinion/pdf/12710.pdf
https://www.caica.jp/media/crypto/nft-art-about/#nft%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%83%88%E3%81%A8%E3%81%AF
https://www.artbasel.com/news/art-market-report