『OPEN PITCH Vol.1』優勝者 株式会社Fant 代表 高野沙月の魅力に迫る
近年、鳥獣被害の防止策である有害鳥獣の捕獲が大幅に増加したことなどから、捕獲鳥獣の廃棄量が増加しており、農林水産省によるジビエハンター認定制度が創設されるなど大きな変革の兆しを見せ始めた狩猟業界。
メディアの影響もあり若者のハンターは増加傾向にある。しかし、狩猟における貴重な知見を持ったベテランハンター同士のコミュニティは旧態依然の閉鎖的な環境である傾向が強く、若者の新米ハンター達にとっては馴染み辛いというのが現状だ。
そんな狩猟業界において「狩猟をDXすることで狩猟文化を新しくしたい」自身も狩猟免許を持つ現役のハンターであり、レガシーな狩猟業界をアップデートすべく、スタートアップとして株式会社Fantの事業に取り組んでいる高野沙月氏はそう語る。
株式会社Fantが描く新しい狩猟文化とは何なのか、代表である高野氏に聞いた。
レガシーな狩猟の世界に今求められているテクノロジーの力
―Fantを創業された背景は何ですか?
大学卒業後に東京で民間企業に就職したのですが、就職後に食べたジビエ料理に魅了され、自分自身が狩猟の盛んな北海道出身だったこともあり、狩猟の世界に興味を持ったのがきっかけです。
そこから狩猟免許と猟銃の所持許可を取得し、北海道にJターンしました。そこで狩猟業界の課題があることを感じ事業を立ち上げました。
―狩猟業界の課題は何ですか?
引用元:農林水産省『捕獲鳥獣のジビエ利用を巡る最近の状況』p.2
まず社会的背景として、鳥獣被害が山間部の畑だけではなく全国の街中でも発生するようになってきているという現状があります。鳥獣被害問題には様々な原因がありますが、その現状のもと大きく2点の課題が挙げられます。
1点目の課題は、鳥獣駆除を担うハンターの地域的な偏りや、若者の新米ハンターの育成環境といったハンターを取り巻く環境がレガシーなままであるということです。一部のメディアなどではハンターの減少や高齢化が叫ばれていますが、最近は地域おこしやメディアの影響もあり、若者のハンターが増加傾向にあり、ハンター全体の人口も下げ止まりや微増の傾向にあります。
しかし、ハンターのコミュニティというのは、ムラ社会のような閉鎖的なものです。地縁的な繋がりのない若者の新米ハンターにとっては成長しづらい環境です。ムラ社会的な環境に馴染むために苦心したり、師匠となる人に出会えなくても、ハンターがマナーを守って安全に楽しめる環境を実現する必要があります。
また、2点目の課題は、駆除した有害鳥獣のジビエとしての利活用率の低さです。年々利用量は増えているものの、依然として低い水準に変わりはありません。「ジビエハンター認定制度」の創設などに踏み切るなど、国も問題意識をもって取組んでいます。
このような現状にある狩猟業界には、ジビエの利活用が促進される仕組みが必要です。そこで我々はそのソリューションとしてハンター向けプラットフォーム「Fant」を着想しました。
―「Fant」の機能やサービスについて詳しく教えてください。
「Fant」アプリケーション
初期の「Fant」は、若者のハンターのコミュニティプラットフォームとしてリリースしました。狩猟をする中で、若者のハンターから話を聞く機会が多くありました。そこで「狩猟始めたけど教えてくれる人がいないからペーパーハンターになった」、「地域の猟友会に入りたいが猟友会に受け入れてもらえない」などのレガシーな狩猟世界の中の若者のハンターゆえの苦労を聞きました。
私はこういった話を聞く中で「地域ごとの猟友会の中からしか情報を得ることが出来ないからこのような悩みやトラブルが発生しているのではないか。インターネット上でハンター同士が自由につながることができれば、こういった課題は解決するはずだ。」と考えこのサービスを立ち上げました。
主なサービス内容としては、ハンターたちがどこで何を捕ったのかを記録・共有できる機能であり、「ハンターのためのSNS」とイメージしていただければわかりやすいかと思います。現在400人程度のユーザーに利用していただいています。このプラットフォームを通して、ハンターのモチベーションアップや狩猟を始める際の敷居を下げることによる新規ハンターの増加を目的としています。
『OPEN PITCH Vol.1』参加を契機に…
―初期サービスリリース後のユーザーの反応はいかがでしたか?
『OPEN PITCH Vol.1』におけるOPEN VENTURES 石井岳之代表
ハンターコミュニティとしての「Fant」ではヘビーユーザーを生むことが難しく、コミュニティが活性化する仕掛けが弱いという課題が発生しました。また、ジビエの利活用率の低さを克服するソリューションとしては、もう一段階ステップアップが必要でした。
Fantの設立以前から支援を受けているD2 Garageからの紹介で、ご紹介からOPEN VENTURES(オープンベンチャーズ)さんの『OPEN PITCH Vol.1』へ参加する機会がありました。
『OPEN PITCH』は、ピッチを行った直後に5人のメンターから1対1で順番にFBをもらう、そしてその内容をすぐに修正し、再度発表という形式のイベントでした。1日の中でこれだけのことを一気にできるスピード感が他のイベントにはない特徴だと感じました。
―その後「Fant」に新たな機能を追加することで現行のサービス内容へと変化していったのでしょうか?
「Fant」を介してジビエを仕入れた飲食店で提供された「鹿のシチュー」
まだ開発段階ですが、ジビエ業界へとサービス領域を拡大させています。ジビエの利活用には、狩猟や鳥獣駆除を行うハンター、その精肉作業などを担う食肉処理施設、ジビエとして提供を行うレストランという大きく3つのアクターが関わっています。そして、既存のビジネスモデルでは、全てのアクターが課題を抱えています。
ハンターは厚生労働省のガイドラインにより2時間以内にジビエを食肉処理施設に届ける必要があります。しかし、食肉処理施設は全国的に見て地域に1カ所あるかないかの施設数なのでハンターは価格交渉や自分で販路を持つということができにくい立場です。また、食肉処理施設は個人や家族経営の施設が多く、動物の処理加工から代金回収までを少人数で行う必要があります。そして、飲食店にとってジビエは気軽に扱える仕入れ価格ではないという課題があります。
そこで、各アクター間を「Fant」で繋ぐことで解決を図ろうと考えました。まず、「Fant」を通して飲食店が価格や量、欲しい日などを提示しハンターを募ります。そして、希望するハンターとマッチング後、ハンターが捕獲作業をし、食肉処理施設に搬入します。最後に食肉処理施設は精肉作業を行い、飲食店に発送します。プラットフォーム上でハンターは、売り先や価格などの条件を狩猟の前に自分で選択することができるため、明確なインセンティブを設定した上で狩猟に挑むことができます。
また、食肉処理施設は業務の負担が減り、収入の安定化にもつながります。飲食店もオーダー制のため納得感のある金額で取り引きができます。加えて、飲食店からハンターへ直接オーダーをすることができるため、飲食店は一般的には流通していないレアな食材にもリーチしやすくなります。このように「Fant」の導入によって全てのアクターに「Fant」を利用するメリットが生まれると考えています。
「Fant」のこれから
―現在、システム開発中とのことですが、特に注力的に取り組まれていることは何でしょうか?
現在はまだシステムの開発中ですが、WEBでの事前登録者を募集しており、すでに地元の飲食店の方々を中心にオーダーを受け付けています。
帯広で飲食店のオーナーをされている方からオーダーをいただき、「こんなに安く買えるんだね」と驚かれたりもしました。仕入れ価格に満足してくださったようで、サービスとして手応えを感じております。
より多くの飲食店の登録とオーダーを増やすことで、食肉処理施設のインセンティブを強化し、「Fant」を介したエコシステム全体をより一層活性化していきたいです。
―今後のご展望を教えてください。
短期的には、今秋リリース予定のプロトタイプを目下開発することに注力したいと考えています。
中長期的には、「Fant」の成長だけでなく、ジビエを食べる人の総数を増やすこと、ジビエ業界そのものを成長させることが必要だと考えています。そのために、ジビエを提供するレストランの紹介やハンター業界のインフルエンサーとの協業などにもチャレンジしたいと考えています。
そしていずれは市場規模が大きい海外市場にも目を向けていきたいと考えています。
―最後に「Fant」を通して実現したい高野さんのビジョンを教えてください。
自らも狩猟免許を保有している株式会社Fant代表高野沙月氏
狩猟業界において、元々ある良いものは引き継いで、良くないものは変える。若者にとっても楽しく快適な狩猟の世界を提供していきたいと思います。
「狩猟文化をあたらしく」という理念のもと、狩猟自体をより一層楽しくしていきたいと考えています。
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