【GHG換算特集】日本企業の取り組みとスタートアップの必要性
【導入】
社会の中で「脱炭素」の声が急速に広まり、企業も明確な数値を示し、地球環境の改善に貢献することが求められている。その取り組みの一つが、GHG換算と排出量の開示である。しかし、突然の変革に頭を抱えている日本企業は少なくはない。
この変革は、スタートアップにとっては、大きなビジネスチャンスになるかもしれない。気候変動問題に取り組み、環境の改善を後押しする技術はクライメートテックと呼ばれており、国内外で関連するスタートアップの創設や、投資が顕著に増えている。
【GHG排出量の公表の義務化】
GHG排出量開示の義務化の背景、それに伴う大企業を含む社会の変化について紹介する。
パリ協定とカーボンニュートラル宣言
2015年、パリで開かれた国連気候変動枠組条約締約国会議 (COP)では、気候変動に歯止めをかけるべく、世界の温室効果ガスの削減を目指した国際的な取り決めが結ばれた。これを受けて、日本も2030年にCO2排出量を46%削減し、2050年には完全カーボンニュートラルを目指すという目標を掲げている。
これを達成するために、2021年3月の地球温暖化対策推進法の改正で、企業のGHG排出量の計算、報告、公表を電子システムによって行うことが義務化された。
GHG換算技術への投資額の増加(グローバル)
世界では、企業のGHG排出量管理を簡素化する需要が高まり、2021年に入ってからは、排出量の算定や取引市場を手掛ける企業の資金調達件数は15件、新株発行を伴う調達総額は95億を超え、件数、金額ともに過去最高を更新した。
(参考:Cbinsights)
出資をしている業界は、エネルギー業界に止まらず、米アマゾンや米マイクロソフトなど世界の大手IT(情報技術)企業も含まれる。これは、世界で最も利益の多い企業の8割が、これまでは任意とされていた企業の環境への影響について、数値を用いて報告していることが大きな要因と考えられる。
例) Amazon
(出典:Amazon)
米アマゾンは’Climate Pledge Fund’と呼ばれる2000億円規模の基金を設立。これはアマゾンが定める、気候変動対策に関する誓約のための基金として、2040年までに、二酸化炭素排出量を実質ゼロとする目標達成のために使用される。出資先は、目標達成のために持続可能な技術やサービスの開発を行う企業である。
【GHG換算義務化の重要性】
GHG換算結果の公表が義務づけられたことを受けて、企業は早急な対応に迫られているのが現状だ。
法律などによる情報開示強化
2021年3月の地球温暖化対策推進法の改正以前から、金融安定理事会(FSB)により「気候変動関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」が取りまとめられており、企業が環境に対してどのような取り組みを行っているかの開示が求められていた。
政府からの厳しい規定や、顧客や投資家など世間一般からの期待に応え、企業としての社会的な責任を果たすことを、時間が限られた中で行わなければいけない現状に、多くの企業が限界を感じている。
企業内でのデータの扱いの難しさ
GHGの換算データの開示は、単に情報開示側の企業中で出ているGHGの総量を収集し計算するだけでは足りない。製造や運搬、出張など、間接的に放出されるGHGの換算と開示が必要になる。
GHG排出に伴う、細部までの計算が求められる際に、企業はデータの収集や計算はもちろん、それらの一括管理に苦労しているのが現状だ。
【スタートアップの需要】
前述の通り、世界中でGHG排出や気候変動が問題視され、その責任の一端を企業が担うという風潮になった。これを受けて、日本国内外の企業は、GHG計算、データ管理、そしてカーボンオフセットを支援しているスタートアップに期待を抱いている。
以下、GHG換算やカーボンニュートラルの分野で成功している、世界と日本のスタートアップをご紹介する。
世界のスタートアップ
・Pachama (アメリカ)
(出典: Pachama)
同社は、企業や個人がカーボンクレジットを購入できるマーケットを提供するとともに、自社独自の衛生画像の解析によってカーボンクレジットの有効性を検証している。
これらの技術によって、カーボンクレジットが本当に気候問題に寄与しているのかという企業の課題に解決策を提示している。PachamaはSaleforce、Microsoft、Netflix、そしてSoftbankなどの世界的大企業を含む800以上の企業や団体に採用されている。
さらに同社は、2022年5月に、シリーズBとして約74億円の調達に成功した。
・Watershed (アメリカ)
(出典: Watershed)
同社は、企業の気候問題対策のための計画や実施、データ管理を支援するソフトウェアを提供している。その他にも、企業のスコープごとのCO2排出量の換算や、サプライチェーンの脱炭素支援、さらには取り組みの経過をレポート形式で可視化している。
WatershedはTwitter、airbnb、Doordashなどの大企業に採用されており、2030年までに、より多くの企業のCO2削減を目指している。
また、同社は2022年の2月に、最新の資金調達として1,100億円の調達に成功し、ユニコーン企業としての地位を築くことに成功したばかりだ。
日本のスタートアップ
・Zeroboard
(出典: Zeroboard)
同社は日本の企業に向けて、脱炭素を後押しするようなクラウドサービスを提供している。特に、サービスの目的を4つに絞り、企業に提供しており、脱炭素社会に向けた動きはもちろんのこと、企業の社会的価値をあげることにも注力している。
世界各国で、カーボンニュートラルを目指したGHG換算のルールが定められるようになったが、数値は国によって異なるため、日本には独自のテクノロジーが必要であるという自覚や、日本のものづくり産業を守るためのスタートアップになっている。
【本稿のまとめ】
2050年カーボンニュートラルに向け、企業はGHG排出量の換算や開示が義務付けられた。これに伴い、日本の企業は今まで着手したことがなかった分野に挑戦する必要に迫られている。
これは、新たな産業の出現と言っても過言ではない。GHG換算、データ管理、活動結果の可視化など、どんな企業でも簡単に迅速に、この変革に対応できる技術が必要とされている。この環境への関心の波に乗り、クライメートテックのスタートアップは、ますます注目されていくことだろう。
OPEN VENTURES では、この大きな変化に挑戦するスタートアップを積極的に支援したいと考えています。
事業の壁打ち資金調達に関するご相談などあれば、お気軽にお問い合わせください。
▼問い合わせ先
https://open-ventures.fund/contact/
【GHG用語集】
▪︎GHG: GHGとはGrrehouse Gasのことで、温室効果ガスの事を総称して示す。GHGとCO2(二酸化炭素)の違いが曖昧になることが多いが、CO2はGHGの中で一番大きな割合を占めているものである。その他にもGHGに含まれる物質は多く、メタン、一酸化二窒素、さらに、ハイドロフルオロカーボン、パーフルオロカーボン、六フッ化硫黄、三フッ化窒素などの代替フロンが挙げられる。これらのGHGは地球環境へ悪影響を与えており、地球温暖化や環境破壊に繋がっている。
▪︎GHG換算: 企業が排出しているGHGの量を、GHGプロトコルで定められている計算方法を元に、換算した数値のこと。
▪︎GHGプロトコル: 世界のGHG換算の物差しとなっている指標である。このプロトコルは、単一の企業によって排出された直接的GHG排出と、その産業を取り巻くサプライチェーン全体の間接的GHG排出の両方に着目している。
例えば、GHG換算を報告する会社が所有する排出源からのGHGは、直接的排出に含まれるが、他の事業者が報告業者の活動に加担した場合に排出されるGHGは間接的排出というように分類される。様々な業者が関連して一つのものを作り上げる産業にとって、自社以外にも、サプライチェーン全体の排出量を計算し報告することが求められている。
事業者による排出量の範囲は、GHGプロトコルにより以下の3つに分けられている。
・Scope1=事業者自らが直接排出するGHG
・Scope2=他者から供給された電気、熱・蒸気の使用により排出されるGHG
・Scope3=Scope1、2以外から排出されるGHG
【GHG換算方法:環境省】
Scope1,2,3それぞれにGHGの換算方法が設けられている。
まずScope1は、地球温暖化対策推進法の規定で、物質ごとに定められた方法で計算された排出量に、地球温暖化係数を乗算して得られた数値の総計がGHG総排出量となる。地球温暖化係数とは、CO2を1とした時に、その他の物質がどれくらいの力を持っているかを係数として示したものである。
Scope2は、活動量×排出係数で求めることができる。これは、他社の電気や熱を利用した際に、どれくらいのGHGが排出されたのかを示す。
最後にScope3の計算方法だが、15個のカテゴリの中で、それぞれ計算方法が定められている。これら全てのScopeの排出量を合算したものが、サプライチェーン全体での排出量となる。
参考文献
1) 環境省, 温室効果ガス排出・吸収量等の算定と報告, https://www.env.go.jp/earth/ondanka/ghg-mrv/overview.html, 2022.
2) 環境省, 温室効果ガスプロトコル: 事業者の排出算定及び報告に関する標準. https://www.bun.kyoto-u.ac.jp/2009gakusei-sien/researchinfo/paper_writing/ohura/references.pdf.
3) 全国地球温暖化防止活動推進センター, データで見る温室効果ガス排出量(世界), https://www.jccca.org/global-warming/knowleadge04
4) CBINSIGHTS, “Funding To Carbon Accounting & Offset Cos Has Tripled This Year. Here’s Why Investments Are Pouring In”, https://www.cbinsights.com/research/carbon-accounting-offset-emissions-tracking-trends/, June 10, 2021
5) Emma Foehringer Merchant, “Carbon accounting is hard. These startups want to make it easier”, CANARY MEDIA, https://www.canarymedia.com/articles/clean-industry/carbon-accounting-is-hard-these-startups-aim-to-make-it-easier, July 20, 2021.
6) Watershed, “Accelerating decarbonization with $70M in new funding”, https://watershed.com/blog/series-b, February 8, 2022