【医療DX特集】日本における医療DXの必要性と課題

【医療DX特集】日本における医療DXの必要性と課題

2019年から始まった新型コロナウイルスは、日本国内外における医療の問題点を浮き彫りにした。さらに日本においては、少子高齢化に伴う医療従事者の減少や、病院の経営悪化など、医療に関わる問題点が今後さらに拡大していくと予想されている。

日本の医療現場の問題を解決すべく、医療のDXが期待されているが、依然として残る紙文化や、デジタルツールの導入に伴う初期コストの負担など、すぐに技術を普及させる事は困難だろう。

そんな中、米国などではデジタル技術を用いて、医療現場の事業効率化を目指すスタートアップが多く登場している。

本稿ではまず、日本の病院経営の難しさ、医療現場の高齢化に伴う問題点と、それを解決できるDXツールを紹介する。
そして次に、コロナ禍での日本と海外DXツールの普及率の比較、また、海外スタートアップがどのような取り組みをしているのかを詳しくご紹介する。
最後に、日本で導入が期待される医療DXの技術について、今後の展望とともに解説する。

今後、日本で医療のDX需要はますます高まることが予想される。本稿では現在の医療の問題点から、医療のDXに向けた取り組みなどを包括的に知ることのできる内容となっている。日本の医療体制や、医療DXに興味のある方、この分野でスタートアップに挑戦したい方々などに是非読んでいただきたい。

日本の医療現場の様々な問題点

現在の日本の医療現場では、人件費の増大に伴う病院経営の悪化や、少子高齢化による人手不足などが問題視されている。

病院経営の難しさ

2019年度の民間医療機関の赤字経営の割合は3割にものぼった。赤字の一番の原因として考えられたのは、病院内での様々な事務作業を捌くための人件費の高さだった。

事実、2019年に一般病院では、全体の医療収益の半分以上が人件費に使われていた。さらに、精神科ではこの割合が6割以上に昇った。


(参考:独立行政法人福祉医療機構「2019年度 病院の経営状況について」)

これは、どれだけ病院が患者を集め、治療を行っても、その利益の半分は人件費として失われてしまう事を示す。

病院経営の悪化には、人件費の高さ以外にも病床の余剰が影響している。
これは、近年の医療技術の発達によって、入院患者が激減していることが原因だ。そのため、病院への通院患者数は安定して確保できていても、病床が余ってしまい、結果として病院経営上の損失に繋がってしまう。

少子高齢化に伴う人手不足

日本では2050年までに、人口の約3000万人が75歳以上になり、超高齢化社会に突入すると予想されている。

(参考:内閣府「平成24年版 高齢社会白書 (全体版) 」)

このような極端な少子高齢化によって、医療現場でも様々な問題が浮上すると言われている。例えば、医療を必要とする高齢者の割合が増えるにも関わらず、医師や看護師の数は減少傾向にあるため、医療現場が追い付かなくなってしまう事などだ。

医療DXの必要性

医療のDXは病院側にも、患者側にも様々な利点をもたらす。

特に、病院側の利点としては、従来は紙ベースで行っていた作業などを、デジタル技術を用いて電子化することで、業務の効率化だけでなく、前述した、人件費や人手不足の課題の克服にも繋がる。

また、患者側にとっても、医療のDXは利便性をはるかに向上させる。例えば、DXによる遠隔医療の実現は、一人で容易に動くことのできない人々や、感染症の流行に伴い行動が制限されてしまう際にでも、医療を提供することを可能にする。

コロナ禍での必要性

新型コロナウイルスの蔓延に伴い、日本国内外の医療現場では複数の問題が浮上した。その一つとしては、以前から問題視されている人手不足があげられる。

しかし、それ以外にも、国際的な物流が滞ったために、医療に必要な物資の輸出入が困難になったことも、重要な問題として捉えられている。そこで、デジタル技術の発達による、統一されたデータ管理はこの問題を解決するかもしれない。

医療のDXを行うことで、マスクや消毒液など、必要不可欠なものが、有事の際でも医療現場に届くようなシステムの構築が現在必要とされている。

日本における医療DXの遅れ

新型コロナウイルスの蔓延以降、世界では医療DXの積極的な導入が勧められてきたが、日本は諸外国に比べて遅れをとっている。以下では、医療のDXに関する、4つの異なる基準の中で、世界と日本に住む人々からの調査結果を提示する。

1.「コロナウイルス流行前後で、医療へのアクセスは改善されたか」

改善されたと回答した人は、世界で20%なのに対し、日本では6%のみだった。

2.「過去1年以内に健康管理にデジタル技術を使ったか?」

使用した人の割合が、世界では60%なのに対して日本は37%に留まった。

3.「日本国内での医療のAI化へ不安を抱くか?」

AIを用いた「診療支援」に不安があると回答した人は46%、「カルテ記載補助」に不安があると回答した人は35%にのぼった。

4.「初診からのオンライン診断の普及率」

新型コロナウイルスの流行に伴い、日本国内での初診からのオンライン診断が可能になった。しかし、世界平均は23%なのに対し、日本は7%にとどまった。

以上の結果から、日本における医療のAI化はまだまだ不十分であることがわかる。また、新型コロナウイルスの流行を同じく経験しているグローバルの平均に追いついていないのが、今後の課題である。

医療のDX例

医療のDXは様々な方法で検討が可能だ。ここでは以下の4つの例とそれぞれの効果について記述する。

  • オンライン予約・受付
  • 電子カルテ
  • オンライン診療
  • RPA

1. オンライン予約・受付

医療機関では、患者の予約を電話のみで対応しているところが多く、受付も紙ベースなど、アナログ作業が多いことが特徴だ。

しかし、IT技術を駆使することによって、患者はインターネットを通じて予約・受付を完了することができるようになる。これらの業務の自動化は、患者の手間を減らすのはもちろんのこと、病院での電話対応業務の削減に繋がる。

2. 電子カルテ

従来の紙カルテに代わり、データとして扱うことはいくつもの利点をもたらす。例えば、患者のデータを同じ病院で働く医療従事者にリアルタイムで共有できることから、業務の効率化をはかれる。

その一方で、電子カルテの普及は、看護師や医療従事者の負担を増やしている場合もある。電子カルテは、データベースとしての役割のみを担うことが多く、利用者側の使い勝手を重視していないことが多い。そのため今後は、IT技術を駆使しながら、医療従事者が簡単に使用できる電子カルテが必要とされる。

3. オンライン診療

これまでは、患者が直接病院を受診することが当たり前と考えられていた。しかし、オンライン診断は、日本のどこにいても、従来と同様の医師による診断が受けられる。

これは、一人で動くことのできない高齢者や、市街地から離れたところに住んでいる人々を取り残さない医療の実現を可能にする。

また、コロナ禍において「受診控え」が懸念されている。そんな中でも、オンライン診療は、感染するリスクや不安を抑えながらも、以前と変わらない診療を患者一人一人に届けることができる。

4. RPA (Robotics Process Automation) 

医療現場の固定化された事務作業をコンピューターが代わりに行うことで、人が現場で行う事務作業の負担を、軽減させることができる。また、事務作業の自動化は、人がその他の業務と並行して事務作業を行う際のミスを、最大限に抑えることができるのもRPAの特徴だ。

RPAを最大限に活用することで、空いた時間を必要な医療業務に費やすこともできるのも魅力だろう。

世界と日本のスタートアップ例

海外と日本で医療DXの分野において成功を収めているスタートアップをドイツ、アメリカ、日本から全部で8つご紹介する。

Ada Health (ドイツ)

(画像:https://ada.com/)

Ada Healthは、2016年にドイツで誕生した、医師向けの医療プラットフォームを提供するスタートアップである。

同社は主に、患者の緊急度自己判定ができる症状チェッカーを開発している。症状チェッカーは、対話ができるAIを搭載したチャットボックスにより、自動でセルフトリアージを判断することができる。これは、コロナ禍において、不要不急の外来を減らすことに大いに役に立っている。


Pomelo Health (アメリカ・カナダ)

(画像:https://www.pomelohealth.ca)

Pomelo Healthは2012年にカナダに創設された、患者用のオンラインプラットフォームを提供するスタートアップである。

同社は特に、病院や医療機関の予約や受付、そして問診をデジタル化し、患者の利便性の向上を目指している。

Notable (アメリカ)

(画像:https://www.notablehealth.com/solutions/patient-intake)

Notableは2017年にアメリカで誕生した、診療ワークフローに特化したサービスを手がけているスタートアップである。同社の診療ワークフローの特徴としては、医療従事者の業務を合理化するために、電子カルテの作成や、医療製品の注文をAIに任せることだ。

特にノータブル社では、電子カルテを作成するAI技術などを開発し、提供している。


サスメド株式会社 (日本)

(画像:https://www.susmed.co.jp/)

サスメド(株) は2015年に東京都で設立された、医療機器開発や、各種医療情報の収集・提供を目指すスタートアップである。

同社は、治療用アプリと臨床試験を促進するブロックチェーンの技術開発を、事業の2つの柱としている。治療用のスマホアプリの開発は、医療分野に詳しいエンジニアチームと臨床開発チームが合同で、乳がんや不眠症などの治療を、医療機器としての承認を得て行うことを目指している。

また、医薬品開発を促進するために開発された「サスメドシステム」は、臨床試験のデータの信頼性をブロックチェーン技術により担保することを目指している。これにより、従来、医薬品開発において多くかかる、人手や人件費を抑えることを可能にする。

リーバー株式会社 (日本)

(画像:https://www.leber.jp/)

リーバー(株) は2017年に茨城県で設立された、医療相談アプリの企画と運営を行うスタートアップである。

同社は、スマホのアプリを通じて、24時間いつでも医師に相談ができたり、健康観察を行える「ドクターシェアリングプラットフォーム」を手がけている。

また、2020年4月にコロナウイルスの流行に伴い、緊急事態宣言が出された時から、一般利用者のアプリのダウンロードが大幅に拡大し、2021年11月には50万ダウンロードを突破した。

また、リーバー(株)に類似したサービスを提供するスタートアップ企業も注目を浴びている。例えば、株式会社コールドクターは、夜間や休日などに医師を呼ぶことのできるスマホアプリを提供してる。

また、スペイン発祥のスタートアップ「MediQuo」は、メッセージアプリと同様の操作で、医師の診断を受けられるアプリの開発に成功した。

・コールドクター

 https://calldoctor.jp/

・MediQuo

 https://www.mediquo.com/en/

株式会社CROSS SYNC (日本)

(画像:https://cross-sync.co.jp/)

株式会社CROSS SYNCは、横浜市立大学附属病院の医師が設立したスタートアップである。同社は、集中治療現場 (ICU) における人手不足が原因で、救えない命の数をなるべく少なくする事を目標に、スマホアプリを開発している。

CROSS SYNC (株)が開発に成功したのは、「iBSEN (イプセン)」と呼ばれる重症患者管理システムである。

iBSENを用いることで、リアルタイムで患者の情報を共有したり、LIVE映像で患者をモニタリングできたり、さらには過去の患者情報を閲覧することも可能である。

このように部分的な医療の自動化によって、高齢化が進んでいる日本で、「防ぐことができた急変」を減らすことに貢献している。

まとめ

日本国内の病院や医療機関には、人件費や少子高齢化を背景とする諸問題が多く潜んでいる。また、新型コロナウイルスの蔓延に伴い、遠隔医療の益々の必要性が強調された。

世界のスタートアップは、医療現場の問題を解決するために、AIを活用したオンラインプラットフォームを多く提供している。その反面、日本のスタートアップは医療DXに追い付いていないのが現実だ。

特に日本では、高齢化に伴う人口減少の影響で、医療従事者の数が減っていくと予想されている。高齢層が、健康で自立した生活を送ることができるように、医療DXは今後、多くの関心を集め、それに伴い、大きなビジネスチャンスが期待されるだろう。

 

OPEN VENTURES では、この大きな変化に挑戦するスタートアップを積極的に支援したいと考えています。

事業の壁打ち資金調達に関するご相談などあれば、お気軽にお問い合わせください。

▼問い合わせ先

https://open-ventures.fund/contact/

 

【参考文献】

1)石川 雅崇, 診療効率化と慢性疾病管理にニーズ 世界調査でわかった事業機会, 月間事業構想, 2022-04

2)石川 雅崇, 藤井 篤之, 小川 貴久, 「グローバルと比べてデジタルヘルスの利用率が低い日本の現状」, Accenture Japan, 2022-02

3)北村 桂之, 「医療機関経営を巡る環境変化」, 日本銀行 金融機構局 金融高度化センター, 2020-10

4)ソラジョブ医療事務, 病院が赤字になるのはなぜ? 原因・理由と経営に活かせる対策を解説, 2021-07

5)月刊事業構想 編集部, 企業一覧・日本と世界で進む医療・介護・体調管理のデジタル化, 2022-04

6)日本経済新聞, AI診断から収益管理まで、病院DXに挑む新興100社, 2021-10

7)深澤 宏一, 「2019 年度(令和元年度) 病院の経営状況について 」, 独立行政法人福祉医療機構, 2021-02

8)Future Stride 編集チーム, DXで医療現場はどう変わる? ,  2021-03

9)Oleg Bestsennyy, Greg Gilbert, Alex Harris, and Jennifer Rost, “Telehealth: A quarter-trillion-dollar post-COVID-19 reality?”, McKinsey & Company, 2021-09