ReFi導入の加速と、日本国内外のスタートアップ例

ReFi導入の加速と、日本国内外のスタートアップ例

導入

昨今、深刻な気候変動などの環境問題のみならず、生態系の変化や、社会の中での格差が世界中で問題視されており、「再生経済」の必要性が高まっている。「再生経済」とは、金融活動を通じて地球環境の再生に貢献するシステムのことをさす。今までは困難だった個人単位の環境改善が実現可能になったため世界中で評価され、取り入れられている。

ReFi (Regenerative Finance)とは、ブロックチェーンの仕組みを利用することにより、Web3上の金融取引が地球環境などの再生に繋がる仕組みのことである。特に、炭素クレジットと呼ばれる非代替性トークンを用いることによって、世界のCO2の排出量を実質ゼロにする取り組みなどが、企業間や個人単位でも行われている。

本記事では、日本でまだあまり馴染みのないReFi について詳しく紹介する。その上で、現在世界で注目されている炭素クレジットの売買や、NFTを通じた環境改善の取り組みを詳しく見ていく。最後に、アメリカを始めとする炭素クレジットに関わるスタートアップと、日本で最近新たに始まったNFTと炭素クレジットに関するマーケットプレースを分析していく。

ReFiとは何か?

Regenerative Finance、通称ReFiは、Web3の「再生金融」の動きのことを示す。ReFiはDecentralized Finance (DeFi)と呼ばれる分散型金融形態に由来している。

ReFiに向けられた関心や、実際のプロジェクト数はまだ安定していないが、2020年から、大幅に注目されていることは以下のグラフから明らかだ。

「Google Trends」で「ReFi」キーワードの人気度の動向を比較
期間: 2004年1月〜2022年8月

ReFiの革新的なコンセプトは、Web3技術によって地球の再生、特に気候変動などの環境問題の解決を試みることである。

ReFiはブロックチェーンの仕組みを活用して、金融的な取引をするたびに、地球の再生に貢献するものであり、その再生の対象域は広い。ReFiが目指す地球の再生は、人間の幸福に必要な物質的資源を回復・維持する仕組みを探る再生経済学を元にしている。

また、このシステムは採取型経済から、再生型経済を目指す過程で、財務的なリターンが社会の中で「再生」のために循環する事を目標としている。

ReFiが目指す3つの再生分野とその背景

ReFを通して実現を試みている地球の再生領域には、以下の3つが挙げられる。また、今の社会でReFiの実用が必要な背景についても分析する。

  1. 気候の安定: 炭素排出市場を中心に、温室効果ガスの排出を削減・撤廃し、気候を安定化させる。
  2. 生物の多様化:人間の経済活動によって引き起こされる、気候変動の影響によって、生物の生態系が壊されている。そのため、生物多様性の育成・開発をベースに、生態系を再生し、その価値を炭素市場のインフラと交換し解決する。
  3. 社会的正義の再構築:現在の経済活動がもたらした、格差や貧困などの副産物は、それぞれの国で異なる影響を及ぼしている。そのため、個々の地域社会に根ざした地域経済の問題を解決し、社会的な基盤を再生する。

これらの再生分野が浮上した背景には、現在地球で起きている様々な危機が関連している。その中でも特に深刻なのは、環境問題である。全ての問題に対処できる特効薬はないが、環境問題の解決のためにReFig今後活用されていくメカニズムと例を以下で詳しく述べる。

ReFiがどのように環境問題を解決するのか

ReFiを環境問題の解決に活用する際に、人々が取り組める活動は様々である。その中でも、現在の技術や取り組みやすさを評価され、世界中の人々に使用されているのが、炭素市場での取引だ。

炭素クレジット

炭素クレジットはある企業の環境再生活動に非代替トークンとして価格をつけることができるもので、主に、環境に有害であると考えられている活動を相殺するために用いられる。

炭素クレジットを用いた環境の再生方法は、環境の開拓事業者が排出したCO2を、自然の元に吸収させる際に使用したり、国際的な大企業がCO2の排出量を実質ゼロにする際に使用される。

炭素クレジットの課題

簡単にCO2の相殺ができる炭素クレジットだが、課題が残っている。それは、既に購入された炭素クレジットが複製されてしまうリスクである。

しかし、ブロックチェーン技術を活用したReFiであれば、ブロックチェーン上の炭素クレジットは追跡が可能な上に、不変であることから、購入者以外の人によって複製される心配がない。

世界の事例

ブロックチェーン上での炭素クレジットの取引を可能にするシステムを開発し、運営している海外の会社をいくつか紹介する。

1.Toucan

(画像:https://toucan.earth)

同社は、Carbon Bridgeというオリジナルの技術を開発し、トークン化された炭素クレジットを誰もがブロックチェーン上に売り出せることを可能にした。                                                   
                                         (画像:https://toucan.earth

また、このCarbon Bridge上において、炭素クレジットは一方通行で飲み取引可能であり、クレジットのコピーを防いでいる。

2. Klima DAO
                                  (画像:https://www.klimadao.finance

同サービスは、Web3とブロックチェーン技術を活用することで世界中の誰もが、直接的にCO2の排出量の問題に取り組めるプラットフォームを開発、提供している。


(画像:https://www.klimadao.finance

Klima DAOの目的としては、世界で作られている炭素クレジットをブロックチェーン上に売り出して買い取ってもらうことによって、これまで排出してきたCO2の総量を中和させることである。これまで、65ヵ国 90,00人以上の人々に活用されてきた。

3.dClimate
                                  (画像:https://www.dclimate.net)

同社は、分散型のマーケットにおいて、気候のデータを収益化し販売している。主な活動としては、地球の環境と気候の回復を目指すために、企業や建設業者が地球に関する重要な情報を簡単に見つけ、アクセスし、活用できるようにしている。

                                    (画像:https://www.dclimate.net)

dClimateを通して公開される気候に関するデータは、研究者や大学、企業などが発表したものであることが多く、公開者が自分で情報の値段を定めたり、無料で公開することを選べるのも特徴だ。また、これらの情報は、dClimateが独自に信頼性を評価して価値を定めている。

日本の事例1

日本ではトークンの発行における規制の問題や、ユーザー側への規制により、国外で取り組まれているようなブロックチェーン上での炭素クレジットの売買は行われていない。具体的には、ユーザー企業などは、投資事業有限責任組合 (以下「LPS」)として、複数当事者間で組成される組合として扱われるため、法律上はトークンの投資に対して構成員が無限責任を追わなくてはならない。

諸外国でもLPS契約は取り入れられているが、日本の法律に定められたものと、厳密には異なるため、日本企業が外国のトークンを用いたReFiに参加できないのが課題である。

その一方で、日本ではNFT(Non-Fungible Token, 非代替性トークン)をベースにした炭素クレジットを用いて、透明性と資産価値を担保した取引が行われている。

日本で、炭素トークンの代わりに使用されているNFTアートは、排出している二酸化炭素を、炭素クレジットの購入によって削減するための取り組みである。

NFTの安全性を担保するために用いられているのが「PoW(プルーフ・オブ・ワーク)」である。PoWとは、ブロックチェーンのシステムの1つであり、世界中のどこからでも、非代替性トークンのやり取りがブロックチェーン上に記憶され、台帳のようなものを作成する事を可能にしている。

しかし環境にいい影響を与えていると思われている反面、ブロックチェーン上でのNFTの安全性を担保するために用いられているPoWが膨大な電力を消費しており、大量のCO2を排出している事が判明した。

この問題を解決するために立ち上がった会社が、株式会社テックシンカーである。

株式会社テックシンカー

                               (画像:https://www.offemission.com/ainftoffset)

同社は、CO2排出量の可視化、カーボンオフセット、脱炭素の促進に貢献するため、「オフ・エミッション」というサービスを運営している。特にこのサービスは、これまで困難だった個人個人が簡単にカーボンクレジットの購入ができ、カーボンオフセットに貢献できるシステムを提供している。

                               (画像:https://www.offemission.com/ainftoffset)

これまでは、個人が炭素クレジットに取り組む際の手続きが複雑だったり、購入できるクレジットが少ないなどの問題があった。しかし、オフ・エミッションのサービスを用いれば、NFTコントラクトアドレスを提示するだけで、機械が自動的にCO2排出量を計算し、個人がNFT取引上で排出したCO2を、実質ゼロにするための炭素クレジットを購入するだけである。

日本の事例2

2022年の7月に、炭素クレジットをオンラインで購入し、カーボンオフセットや再生経済に貢献できるマーケットプレースが企業向けに発表された。

このサービスは三井物産の子会社であるe-dashがスタートアップとして開始したもので、炭素クレジットの取引を大企業のみならず、中小企業でも行えるような仕組みが注目を集めている。

                                     (画像:https://carbon-offset.e-dash.io)

7月時点で、同サービスが取り揃えている炭素クレジットの種類は40を越している。その中身は、1トン1000円台で購入が可能なものから、1トン10万円を超えるような高額なものまである。それぞれのクレジットは世界各地で取り組まれている森林保護や、風力発電プロジェクトが元になっている。

購入方法も極めて簡単で、クレジット一覧から好きな炭素クレジットを購入したい分だけ(最小0.01tから)選択し、ウェブサイトからクレジットカードで支払いを完了させるだけである。手続きが完了した時点で、オフセットの証明書がメールにて送信され、国際機関の認証を受けた炭素クレジットを購入した事が簡単に証明できる。

このサービスは三井物産の子会社であるe-dashがスタートアップとして開始したもので、炭素クレジットの取引を大企業のみならず、中小企業でも行えるような仕組みが注目を集めている。

結論

環境汚染や地球温暖化などが世界中で問題視されている中、ブロックチェーン技術との親和性の高さに、再生経済への期待が高まっている。今回扱ったReFiは、気候変動を企業でも、個人単位でも解決するべく、世界の国々で導入が進められている。その中で、炭素クレジットは特に関心を寄せられている領域で、ReFiを使用して簡単にCO2のオフセットに貢献できるのが魅力だ。日本では、非代替性トークンの規制の関係により、欧米諸国ほどのインパクトを企業や個人にもたらすことは難しい。しかし、今後もブロックチェーン技術やトークンの凡庸性や信頼性が高まるにつれて、日本でもスタートアップなどが積極的にこの分野を開拓していく必要が高まりそうだ。

用語集

Blockcahin:公開分散型台帳と呼ばれるもので、取引をする際に必要な情報を、ブロックごとに改ざん不可能な記録の連鎖にして作り出している。

Web3:まだ使われ始めてまもない用語であるため、全世界で広く認知された定義は存在しない。しかし、Web3とは、ブロックチェーンに基づき、分散化され、デジタルトークンを伴うあらゆる形態の活動を指す。

DeFi (Decentralized Finance):分散型金融のことで、中央に管理者を設けない金融システムを示す。取引はブロックチェーンに記録されるため、透明性が高いのが特徴だ。

NFT (Non-Fungible Token):代替が不可能な唯一無二のトークンをデジタルアートで創造したもの。

参考文献